ライズを待ち続けて

東北の渓流を舞台とした釣り物語

キサス・キサス・アニサキス

コロナパンデミックも終息を迎えつつあるのか、次なる変異株感染までの谷間なのかは分からないけど、患者数は減少してこの春は全体的に警戒心が緩んできている。去年までの春とどこが違うかというと、飲み会をする機会が増えてきた。

3月になって川は解禁を迎え、どこに行こうかなと思案していると、昔の職場仲間から飲み会のお誘いがあった。いそいそというかわざわざ(・・・・)電車で1時間以上もかけて港町まで出向いてきた。お目当ては、旧交を温めるというよりも、むしろ新鮮な魚介類であった。家飲みで調達するには魚介類の種類にも限界がある。小さな居酒屋に4人揃うと、期待通りに、膳には、アイナメ、まぐろ、カツオ、ヤリイカの切り身、炙りしめさばに、それからなんかのぬたが大皿に盛られてきた。それを運んできた板前がひとつずつ魚の種類を説明した。マグロを除いて、地元の港で揚がったものである。ただぬたの説明だけは、その魚種の名を聞きぞびれた。

地酒を飲むのも久しぶりで、大皿の上のものを、ずけずけと人の分まで食べてきた。心地よく、2時間かけて帰宅してきてからも上機嫌で、ああ楽しかった。と寝付く間もなく夜半から胸、みぞおちのあたりが苦しい。むかむかして吐き気をすることもある。朝になっても治らない。実は、それ以前から胃のあたりには違和感があり、その1週間前も映画館で気持ちが悪くなって途中退場したことがあった。これまでなかったことだったので、布団に横になりながら、なんか悪い病に消化器官がやられているのではと不安が徐々に高まって来た。

この何年かは健康診断も受けていなかったことでもあり、ここは早めに病院で診てもらった方がいいかなと思い、病院をネットで探してみた。ウエブ上の情報を慎重に吟味した結果、割と近くに即日胃カメラ検査をしてくれるところがあり早速出かけてみた。

医師は患者の目をきちんと見て話しを聞く方で、こっちの言いたいことを理解してくれたようだった。もともとそんなに複雑な症状ではないからたやすいことだったかもしれない。すぐに胃の内視鏡検査をすることになった。ただ、以前、口からファイバースコープを入れられて、もん絶した経験があったことから、今回は鼻腔から入れる方を選択した。季節的に花粉症で鼻腔内が炎症でむくんでいるとスコープが入りにくいそうだが、右鼻腔は通過を許し、スプレー麻酔をしているために生々しい痛みもなかった。ただ食道のあたりを堅そうな異物が通過していく感触があった。

「最近なにか生ものを食べませんでしたか」


内視鏡を操作していた医師から尋ねられた。

「いっぱい食べました。」と、素直に答えた。

「胃の下の方になにかいますよ」「アニサキスですね。」

その瞬間、この記事を読む方々を不快にさせるような映像が頭に浮かんで、つい聞いてしまった。

「何匹ですか?」

医師はファイバースコープにワイヤーを差し入れて、その先の鉗子でアニサキス一匹をつかみ出してくれた。ちなみにこれは全然痛くはなかった。無断で居候していたアニサキスはたかだか長さ1,2センチの、チペットで言えば、2Xくらいの太さかな。取り出してみれば、なんだこいつと、二本の指先で造作もなく押しつぶせるくらい細くて弱々しいものだった。

 アニサキスはもちろん知っていたが、激痛が走ると聞いていたので、全然疑わなかった。医師によると、取り憑いた胃壁の周囲がアレルギー反応で炎症を起こすのだという。その後丸一日すると、胸やけのようの症状はみるみる消えてき、やがていつもの暴飲暴食生活に戻ってしまったのだった。

しかし、この後に面倒くさいことが待っていた。