ライズを待ち続けて

東北の渓流を舞台とした釣り物語

いわて南沿岸3泊4日川釣りの旅 ①

小股川の平瀬に架けられた古い小さな橋 

 あらかじめ仕事上の都合をつけて、木曜日の夜までには帰宅することを家人に約束して月曜日の朝からひとり旅に出た。行き先についてはだいたいの目途はつけているが、初めて訪ねる川もあり、また必ず行かねばならないところなどもないので、自由度の高い気楽な釣り旅だ。天候、釣果によっては変更もできるように、宿はその当日にオンラインで予約することにした。

 そもそもは、定年退職して自由な時間が多くなったならば、ふらっときままに釣り旅に出たいという願望を抱いてきていた。現実は退職したからと言って無職になるわけにはいかず、なにがしかの仕事をしてきていて、決して繁忙とは言えないが、まとまった休みを取るためには、前もって計画が必要なことでもある。でもそれは言い訳に過ぎず、むしろ自分自身が長期の休みを取ること自体に、はっきりとした理由なくなにか後ろめたい感情が伴うことが最大の障壁だったのだろう。いろいろとしがらみを外していくようにしてきてやっと今日に至った。

・初日

 まず、めぼしをつけていた気仙川支流の大股川を目指した。が、到着してみると川は増水していてフライを川面に浮かべられないほど流れが速い。出鼻をくじかれたようだが気象条件にモロに影響されやすい渓流釣りは思ったようにいかないこともよくあること。しょうがない。後から調べるとその前々日、近くの住田町では50ミリ以上の雨量が観測されていた。上流まで様子を見に行くが、濁りこそ入っていないが以前来た時より見かけ倍以上の水位があった。そこで峠を越えてより北側を流れる小股川に行ってみると、水量が多い程度でむしろ釣りには適している程度に見えた。これも後から調べると、遠野では同じ一昨日に観測された雨は10ミリ程度だったから隣接する地域でも雨量にムラがあったようだ。

 小股川は里を下る清流で護岸はされているものの、ヤマメが好んで定着しそうな渓相があちこちに見られる。ヤマメの気持ちはしょせんわからないわけだから、ヤマメ釣りが好んで入渓したくなる川と表現のが正しい。国道に沿って流れているだけに釣り人が多いようで場所によって魚の密度に違いがあるようだ。

 入渓する地点を探してあちこち歩き回り、大股川との出合いまで降りてきてこの旅の最初のヤマメを釣る。そして曇り空を通して川面に届いていた日差しが衰えてくると、日中は用心深かく川の外のかすかな動きをも察知して隠れていたヤマメたちも、水面の上を飛び回る小さな虫に動きに釣られて平らな川底に出てきている気配が漂う。さっきまでは無反応だったプールの駆け上がりを狙って水面にフライをうまく浮かべると、その度ヤマメは川から飛び出して食らいついた。