ライズを待ち続けて

東北の渓流を舞台とした釣り物語

いわて南沿岸3泊4日川釣りの旅 ②

日に日に成長する新緑が渓を緑に染める


2日目

 前日は大船渡市のホテルに泊まり、一夜明けると晴天。予報ではここから3日間は好天が続く。大船渡から三陸道を北に向かおうとすると大きな山が鎮座しているのが望める。標高は高いわけではないが、饅頭型で堂々としていて印象的。ここからいよいよ本格的なリアス式海岸が始まるよと知らしめているように見える。

 今日は吉浜川へ向かう。河口から藩政時代の街道の雰囲気を残す集落を抜けると人家は絶える。川は傾斜がきつく水量が多いので、谷底を叩きつける水の音が林間に響いている。道路から川まで道はついていないものの、斜面の松やヒバには下生えがなく谷底までよく見渡せるので、傾斜の緩いところを選んで谷底まで降りてくることができた。川は積み重なった巨岩の間を滑るように流れ、連続する落ち込みの間は川幅が広がりヤマメの恰好の居場所になっている。水は透明度が高いので川底がよく見えている。河畔からは浅い色の柔らかな葉をつけた広葉樹が枝を伸ばしており、その背景にはディープブルーの空が広がる。

 こういう川のほとりに一人で佇んでいるのはなんとも気持ちが良いもので、他のことでは感じたことのない「この世に生を受けて良かった」という感情が心の底からこみあげてくるのは私だけだろうか。美しい自然に囲まれて時を過ごしていられるのは、渓流釣りをしているからであって、そうでもなければ何時間も川に留まっていることはない。フライフィッシングが招いてくれたようなもので、この釣り技法を考案して、発展させてきた先人たちに感謝の念が起こる。

 さて肝心のヤマメであるが、陽射しが川面にも降り注ぐのが仇になり、川の外の気配に敏感になっている。いち早く気配を察知したヤマメはすばやく岩陰に逃げ込んでしまっていた。しばらく釣り上がって、落ち込みの泡の中に潜んでいるのが、フライを後追いして咥え、また水泡に戻ろうとするのを捕まえることができた。早い流れに洗われているだけになかなか力のあるヤマメだが、掌に納まってしまうサイズである。

 昼過ぎまで川を上るうちにバテてきたので、車で上流の大窪渓谷まで出かけてみる。川筋に細々と続く道路はやがて谷底との落差が生じて、川ははるか下方の谷底を流れている。しかし進むにつれてやがてその差が縮まってきて、再び道路は川と出合い、すぐそばを流れるように接近する。その流れは下流のどの流れより穏やかである。

 ダート道を通って五葉山の登山口まで行き、熊野川の様子を見ながら吉浜川に戻って今度は浄水場の上を狙ってみる。時間は夕刻。本日のラストチャンス。もしかしたら昨日みたいにヤマメたちが瀬に出ているかもしれないなと期待をしながら、車を停め、再び道なき松林の中の斜面を駆け下って行った。そして川岸まで辿り着こうとするところで、踏み出した足先に獣(けだもの)の死骸が横たわっているのが目に飛び込んできた。