ライズを待ち続けて

東北の渓流を舞台とした釣り物語

 アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた ⑤

5 フリーウェイ  

 モホークトレイルを西へと向かう                                   BGMはイーグルス

 

 さて、大分前置きが長くなってしまった。ここで旅行の経過をすっ飛ばして、渡米6日目、釣り当日の朝から話を再開する。天気は前日から急に冷え込み、目的地である西方向の山では降雪があったと、朝のニュース番組では雪景色を報じていた。どうなることやら、行ってみなければわからない。

 ホテルから水族館の近くにあるレンタカー店までスーツケースをゴロゴロと転がし、借りた日産のROGUEローグという2500ccのSUVは、普段運転している車に比較するとかなりでかい。しかしアメリカでは標準サイズである。 左ハンドルの車は、ワイパーとウインカーの位置が逆。慣れるまでは交差点で曲がる度にワイパーを作動させることになった。 この程度であればご愛敬のうちだが、道路の右側通行に関しては間違えると事故に直結しかねない。路外から道路に出る時にうっかり左側を走らせそうになったことが度々あった。交差点も勝手が違うが、右折は比較的簡単で、なにも難しいことは考えずに道なりに曲がればよい。しかも正面が赤信号でも通行がなければ右折できる。これはとても合理的だ。車の通行がないにも拘わらず、信号のために待っているストレスから右折車を解放している。こんなところがアメリカ的なのだろうか。その反対に交差点での左折は日本のドライバーには難しく、曲がりながらいつもの通りに左車線に入りかけて、対向車のドライバーを驚かせたことが一度ならずあった。 

 街中から郊外に出るフリーウェイは、日本でいえば首都高のような自動車専用道路であるが、ただし出入口のゲートがない。なので、気がつくといつの間にか片側4車線の道路を60マイルのスピードで流れる車の群れの中にいた、ということが起こる。流れに乗ってしまえば運転はむしろ楽で、安全運転で走っても、案外煽られることはなかった。車線が広いので車線を変えて追い越していくだけのことなのだろう。それからもう一言だけ付け加えると、パーキングやサービスエリアは殆どない。だからトイレや休憩はいったんフリーウェイを降りて近くのスタバやダンキンドーナツなどを利用することになった。 

 ボストンの郊外を抜けてからは、大地を一直線に切り開いたような道路で、両側は茶褐色色に染まった広葉樹林帯が同じ背丈で際限なく続いている。You Tubeから車内に流れたのはイーグルス。とりわけLyin‘ Eyesという懐かしい楽曲のビートは先を急ぐ車に軽快に響き、サビのコーラスは明るい空に抜けていった。やがて車線の数が減っていき、最終的には片側一車線になると、道路は村々をつないでいる生活道路になり、沿道には、牧草地や畑が現れた。小さな村落に入ると広い芝生の中に一軒家が建ち並ぶ景色になる。

 

  午後2時前に目指していた Mohawk Trail State Forest の入口に着いた。あたりに人の気配はない。枝分かれして公園内に入る道路には橋が架けられていて、見下ろしたは Cold Riverはネットで見た通りの規模の小さい川であった。車から降りてみると空気はひんやりしており、虫が飛んでいる気配はなかった。未舗装の道を辿って公園内に入って行くと、やがて管理事務所の建物が現れた。大きな看板があり、公園を案内する地図が描かれている。それによるとトレッキングのコースがいくつもある自然公園のようであった。あたりの様子を伺っていると、髭ずらでサングラスをかけた男が事務所の裏の倉庫から出てきた。事務所に入ろうとしたところを、こちらの姿が目に入ったようで、進路を変更してこっちに向かってゆっくりと歩いてきた。そこで、こちらからも近づいていき、拙い英語で声をかけてみることにした。 

 

アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた ④

4 オレンジ色のレインウエア 

 

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川の水位が変化する警告  

  そして持参する釣り具の準備である。ウエブで推奨しているのは5番か6番のタックルだ。6番の持ち合わせは2本つなぎのロッドしかない。これをアルミケースに入れてマンハッタンをうろつくわけにもいかない。かと言ってスーツケースに納まるパックロッドは3番と4番しかない。庭に出て両方をつなぎ合わせて振って比較してみると、当然だが4番の方が口径が太く、大きな魚の引きにも耐えられそうである。ただしこれは平成のひとけた時代に、白神山地の奥地へ入るために買ったものである。フライフィッシングを手ほどきしてくれた師匠から、ロッドというものはなるだけつなぎの数が少ない方が性能に優れているものである、と教えられ、普段使いはせず竿袋の中で寝かせていることが多かった。いつだったかロッドのつなぎ目が緩くなってしまったので、行きつけの釣具店に修理に持っていったら、腰の弱さを指摘された代物である。つまりロッドの命とも言える反発力が弱いということ。その後の源流釣りで久しぶりに使ってみたら、ここぞという大事な場面でイワナを2度もかけそこなってしまった。早合わせをしたわけでもないのに、フライがイワナの口からすっぽ抜けてしまった。この失敗の原因をロッドに帰してまた寝かせてしまっていたが、今回はこのような事情により、大事な場面での起用となったわけである。 機嫌を直してやる気を出してくれていることを願って。

 リールは、4番のシンクチップラインをまいたものと、 WF4番のフローティングを二つ準備した。これはいつもホームグラウンドの荒雄川で使ってきたものだ。念を入れてラインとリーダーとをネイルノットで結び直し、両側を持って左右に引っ張っても抜けないのを確認した。それらを小物と一緒にウエストバック一つに詰め込んだ。ランディングネットは木製の華奢な造りで嵩がある。川までたどり着く間に壊れてしまうこともあるだろうと案じる反面、持参しないのは、端から負け戦を覚悟しているような気がしたのだ。 

 それと最後にオレンジ色のレインウエアをバッグに詰めた。州のウエブで知ったのだが、ちょうどこの時期は州内でハンティングが解禁される。対象は、鹿、熊、キジ、それに七面鳥である。実際に、釣り当日先住民の像のあたりで車を止めたら、それを避けるように鳥の群れが木立の中へ逃げ込んでいった。大型で体がずんぐりむっくりしており、初めて見たのでちょっと怖かった。川岸は良い猟場となるらしく、この時期釣りをする人は間違って撃たれないようにオレンジ色のものを身に着けるように、警告されていたのだ。ちなみに狩猟の方法は銃だけでなく、弓矢を使うことも許されているというからなんとも怖いものです。

 

 

 アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた ③

3 マサチューセッツ州のレギュレーション 

  

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   川沿いの公園内の木に張り付けてあった表示                      3匹を超えてキープした違反を見つけたら200ドルの報酬がでるとの公示

 もう一つクリアしないといけないのが、レギュレーションとライセンスのことだ。そもそも日本では、禁漁期に入っているこの時期にアメリカでは川釣りができるのかという根本的な問題である。そこでこれもインターネットを使って探すと、マサチューセッツ州政府が運営するウエブサイトに、Fishing & Huntingという項目があり、中に入っていくと州内の釣りの情報に触れることができた。わかったことは以下のことである。 

 魚の種類や川や湖によって異なるが、州内の主要な河川のトラウト釣りに関しては日本のような禁漁期間がなく一年中釣りができる。キープできる魚は一日3匹まで。サイズの制約はない。またウエブ内の州地図には無数の釣りスポットが明示されていた。それぞれに、川か止水なのか、ボートのアクセスができるか、キャッチアンドリリース区間か、関連したウエブがあるかなどの情報がある。魚を放流した時期、数、場所の情報についても知ることができた。その他にも、釣りにはどんな道具が必要なのかといった初心者向けのページもあり、実際に初心者向けのレッスンの開催もしているようだった。意外だったのは餌釣りに関する情報もあったこと。なんとなくアメリカではみんなフライフィッシングをやっているものと思っていたがそうでもないらしい。釣りをまったくやったことがない人に一から教えるような内容も充実しており、川や湖が釣り場として、広く利用されることを目指しているように感じた。 

 日本で言う入漁券、つまりライセンスは、non-resident 3日券が$23.30だった。ちなみにnon-resident の年券は$39.50 。オンラインで購入できるというので早速申し込むことにする。名前や生年月日のデータを記入するのは当然だが、身長、体重をフィートやポンドに換算して入れること、目や髪の毛の色をも記入するのが物珍しかった。フォームにすべてを記入するものの、受け付けられない。何度試してもダメなので、仕方なくメールで問い合わせてみる。すると、住所やメルアドは米国内のものでなければ受付けないのだそうだ。でもいったん受付けた後は、外国のものに変更することができるからそうしておくれいうことであった。困ったなと思案した末に、滞在予定のホテルのものを入れることにする。住所は入ったが、ホテルはメルアドを公表しておらず困った。やむを得ず予約していたニューヨークでの観光ツアーを主催する会社のものを入れたところ受理され、すぐにオンラインでライセンスが送られてきた。手に入れることができたのである。 

  しかし、無断でメルアドを利用したことが、このあとちょっとした騒ぎを起こすことになった。