ライズを待ち続けて

東北の渓流を舞台とした釣り物語

アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた⑦

7 極東から来た釣り師

   

Deerfield River で釣れたレインボートラウト



 河畔に立ち並ぶメイプルツリーに見守られながら、はやり立つ気持ちを抑え、6本のパックロッドをつないだ。そしてシンクチップをまいたリールを取り付け、リーダーにはオレンジのエッグフライを結んだ。背後に障害物はないので思い切ったキャスティングができたが、ロッドを前後に振ると、ラインの荷重に耐えかねたように、ロッドのグリップあたりがミシミシとしなり音を上げた。これで50センチのマスがかかったら岸に上げられるだろうか。 

 フライを対岸めがけて投げつけ、ラインを沈め、メンディングをかける。水の流れが緩いポイントにフライを通過させたがなんの反応もない。フライが十分に沈んでいないようなので、小さいウエイトを噛ませる。それでもあたりがないので、リーダーを短くしてみた。それでも反応が全くないので、フライも淡いピンク色に変えてみた。水温も低そうなので魚が川底についてじっとしていることを想像した。 

 少しずつ下りながら30分もやっていたところで、グイっとラインを手繰られるようなあたりが初めてあった。手首で合わせてやると、それに抗う動きが手元に伝わってきた。魚は流れの筋を超えて反対側に逃げようとするのをロッドを立てて制止する。すると、今度は川上に向けて遡上しようとした。逃げる方向と反対側にロッドを立てていなしているうちに、やがて魚は足元に寄り、お互い目を合わせる距離まで近づいた。さらに逃げようとするのを手元に寄せ、それを数度繰り返した末に、背中にぶら下げていたネットを取り外して、すっと救い上げてやった。レインボートラウトだった。 

 河原には西日が強く差していた。浅瀬に寄せられた魚は、水底に折り重なったメイプルの落ち葉を背景にしてまぶしく輝いていた。極東から来た釣り師は、サイズを測るのも忘れて、それをしばらく見つめていた。 

 「オレはお前に会うためにここまで来たんだよ。」  

 横になった魚は打ち寄せる小さな波に揺られて口を開け閉めしていた。 

 魚を川に戻して、釣りを続けた。すぐにもう一度軽いあたりがあった。これはいけるなと思ったもののそれ以降は反応がない。2、3歩ずつ下流に移動して丁寧にポイントの底にフライを流したが反応はなかった。さらにポイントを探して瀬を釣りあがる手もあったが、日が傾いてきてしまい、水面に夕映えが反射して、水底が見えにくくなってきていた。釣りを続けるよりも、上流にある2つのキャッチアンドリリース区間がどのような様子なのか見ておきたくなり、釣りをここまでにして川からあがったのだった。