ライズを待ち続けて

東北の渓流を舞台とした釣り物語

アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた⑧

キャッチアンドリリース区間 峠のロッジの焚火 車で上流に向かった。まもなく一つ目のキャッチアンドリリース区間に入った。道路は川からつかず離れず並んで走っている。林間から覗く渓相は瀬が主体のようで、どこからでも川に入れそうに見える。それが1マ…

アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた⑦

7 極東から来た釣り師 Deerfield River で釣れたレインボートラウト 河畔に立ち並ぶメイプルツリーに見守られながら、はやり立つ気持ちを抑え、6本のパックロッドをつないだ。そしてシンクチップをまいたリールを取り付け、リーダーにはオレンジのエッグフ…

アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた ⑥

男との出会い 西日に照らされる Deerfield River 男はレモンイエロー色の作業着を着ていた。なにか用か?という表情をしている。 「こんにちは。あのー、ちょっと聞いてもいい?」 「うん。なによ?」 男は思ったよりも若く、気軽な感じで応じてくれた。 「…

 アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた ⑤

5 フリーウェイ モホークトレイルを西へと向かう BGMはイーグルス さて、大分前置きが長くなってしまった。ここで旅行の経過をすっ飛ばして、渡米6日目、釣り当日の朝から話を再開する。天気は前日から急に冷え込み、目的地である西方向の山では降雪があっ…

アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた ④

4 オレンジ色のレインウエア 川の水位が変化する警告 そして持参する釣り具の準備である。ウエブで推奨しているのは5番か6番のタックルだ。6番の持ち合わせは2本つなぎのロッドしかない。これをアルミケースに入れてマンハッタンをうろつくわけにもいか…

 アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた ③

3 マサチューセッツ州のレギュレーション 川沿いの公園内の木に張り付けてあった表示 3匹を超えてキープした違反を見つけたら200ドルの報酬がでるとの公示 もう一つクリアしないといけないのが、レギュレーションとライセンスのことだ。そもそも日本で…

 アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた ②

2 Deerfield River Hail to the Sunrise Park モホーク族を称える像だという この像がある公園に車を止めた モホークトレイルの西端の町NorthAdamsのロッジに宿を取り、ボストンから車で往復する間に、釣りに使える時間はわずかだ。ボストンでレンタカーを…

 アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた

1 旅の始まり マサチューセッツ州の田舎町North Adams 秋にニューヨーク市へ観光旅行することになった。アメリカへ行くのは初めて。家族と一緒にもっぱら観光名所巡りになる予定なのだけど、内心ではせっかくそこまで行くのだから、どこかの川でフライフィ…

キサス・キサス・アニサキス 2

アニサキス中毒は食中毒の一種になるんだという。病院から保健所へ連絡されることは聞いていたが、検査が終わって病院を出るなり保健所から電話があり、質問攻めが始まった。原因と思われる食事をとった店の名前、場所、日時、時間、料理の内容、一緒に食べ…

キサス・キサス・アニサキス

コロナパンデミックも終息を迎えつつあるのか、次なる変異株感染までの谷間なのかは分からないけど、患者数は減少してこの春は全体的に警戒心が緩んできている。去年までの春とどこが違うかというと、飲み会をする機会が増えてきた。 3月になって川は解禁を…

釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 8/8

さてずいぶんと寄り道してしまったな。なんの話をしていたんだったか忘れちまったな。笑笑。そうそう、気象データを見てタカシと釣りに出かける話だったな。その年は期待していたほどではなかったがな、イワナは釣れた。面白かったのはな、タカシはブリーチ…

釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 7/8

その後しばらくしてからな、ワシは何年かぶりにタカシとこの川に行ったことがあった。しばらく釣り上がって一息ついていると、ワシらの後から来た二人組と会ったんだよ。彼らはワシらの足跡を辿るように釣り上り、そこで追いついたという具合だな。皆も経験…

釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 6/8

実はタカシがその大きなイワナを釣った閉じた沢があるところは、この川のイワナ釣り場のほんの入り口でしかないんだよ。本流の奥は深くてな、山道から杣道を経て川原に降りてからも川は延々と続いていた。地図で見ると、源流はいつかの支流に分かれていて、…

釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 5/8

そいつはな、ただサイズがでかいだけではなく、体色が白いイワナだった。アルビノとは違う。色が薄かったんだね。暗い谷だと思っていたんだが、実は河床には花崗岩が砕けた白い砂が堆積していたんだよ。そこに居ついていたから、環境に合わせてそんな色にな…

釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 4/8

それはさらに古い話でな、さっきの話からさらに30年ばかりも遡る。昭和の時代のことだよ。当時、フライフィッシングを覚えたばかりのワシは,すぐに夢中になって、あっちこっちの川へ足繁くでかけるようになった。そして楽しさを誰彼となく語り聞かせてい…

釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 3/8

前の年にそんないい思いをしたものでな、次の年もまたチャンスを狙っていたのだ。ところが、その年の6月の上旬は雨が続いてしまっていてな、中旬になると今度は気温が上がらなかった。天候につられてこちらの動きも鈍く、なんだかその気にならなかった。そ…

釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 2/8

その前の年はな、冬の間の雪が少なかった。そして春になってから急に気温が上がったんだ。だから、これは雪代水が落ちるのは早いだろうと予測したわけだ。そして、タカシに連絡して、いつもよりも一か月以上も早く一緒にその川へ行ったのだよ。タカシという…

釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 1/8

今日はこれから皆にある川の話をしようと思う。食べながら呑みながらでも聞いていっておくれ。 30年も前の話になるがな。その頃には毎年の気候の変わりぶりが激しくなっていてなあ、冬の間に降り積もる雪の量も年によって違ってくることが多くなってきておっ…

 サクラマスの渚 2

「魚が見えるの?」 川を渡った女が、マコトたちのすぐそばまで近づいてきていた。男は口をつぐんでしまった。マコトは戸惑いながら逆に 「何かを探していたんですか。」 と問い返した。白いクロップドパンツを履いた女は、見てと言って、マコトまで歩み寄り…

 サクラマスの渚 1

目の前には初夏の日差しを浴びた海原が広がっていた。沖からは浜辺に向かって緩やかな風が吹いており、砂浜にさざ波を打ち寄せていた。そして波間には時折大きな波しぶきが跳ね上がった。浜辺の背後はすぐに切り立った崖になっていて、表面の地層を露わにし…

川で失くしてきたもの   9 お別れ

シンジは次の年の春、鉄塔高校に入学した。校内では、暴力もけんかもなく、盗みもなく、平和な生活を送ることができた。一方で、シゲハルの消息はまったく分からなかった。もちろん、鉄塔高校を受験したメンバーにはおらず、高校を受験したのかさえ定かでは…

川で失くしてきたもの   8 小沼先生の失態

「今日はたいへん珍しいお客さんをお迎えしています。」 と、校長先生は中学校の体育館のステージに立って、マイクロホンからフロアーに整列して立っている全校生徒に晴れ晴れしく語りかけた。 「ジェニーさんは、アメリカ合衆国のニュージャージー州から来…

川で失くしてきたもの   7 鉄塔高校

中学3年生も半ばを過ぎたころ、シンジはシゲハルから問いかけられた。 「シンジ、だれでも勉強すれば成績は上がるんだろ。」 シンジは前回の中間試験で成績が上がり、クラスメートの前で学級担任の先生に名前を挙げて褒められた。それは、塾通いをしたこと…

川で失くしてきたもの   6 シゲハルの住まい

その日、シンジは学校からの帰り道にシゲハルの家に寄った。シゲハルに家に行くのは初めてあった。シゲハルの家は平屋の一軒家で、シンジが玄関に向かって歩もうとすると、シゲハルは、あわててそれを制して 「こっち」 と、母屋の隣にある木造の小さな倉庫…

川で失くしてきたもの   5 フライフィッシングとの出会い

シンジはシゲハルと二人だけで話すのは、その時が初めてだった。シゲハルも釣りが好きで、ひとりであちこちの川に出かけて、川釣りをしていることをシゲハルの話から初めて知った。シゲハルの方も、シンジが同じ趣味をもっていることに好感を持ったようであ…

川で失くしてきたもの   4 釣り友達 

シンジもまた、中学生活に馴染めない生徒のひとりであった。シンジは中学入学後、運動部に入ったが、他の部員が簡単にこなしている日々の練習についていくのが辛かった。先輩からは根性がない奴だと思われているのが悔しくて、意気地を見せようとも思うのだ…

川で失くしてきたもの   3 失われた教科書

シゲハルは、中学校の教室の中ではいつも一番前の席に座っていた。背丈が低いということもあったのかもしれないが、むしろ教壇に立つ先生の目が届くところに座らせられていたというところだった。というのも、シゲハルの言動には他の生徒とは異なる奇妙なと…

川で失くしてきたもの   2 キャップ

それはロッドを納めるアルミ製のケースのキャップ(蓋)のことであった。それを失くした時のことはよく覚えていた。 釣りを終えて、車から取り出したケースに釣り竿を収納しようとした時に、キャップを足元に落としてしまった。夕暮れ時であり、暗くなった草…

川で失くしてきたもの その1 プロショップ  

シンジは長い間務めた職場を退職したが、まだ気ままに釣りをして暮らせる年齢ではなかった。半年ほど就職活動を続けて、春から雇用されることになったものの、運悪くコロナ禍の影響があって実際に働き始めるのは、5月の連休明けとする通知が届いた。まだ春…

クマより怖いもの

荒川と言っても山形県から新潟県を経て日本海側に流れる川のことだけれど、その上流域はフライフィッシングにとても適している川である。大小の石がゴロゴロと転がる河原が広がり、その中を透明度の高い美しい水が流れている。河畔林にフライをひっかける心…