ライズを待ち続けて

東北の渓流を舞台とした釣り物語

アメリカ旅行の道すがらフライフィッシングをしてみた ⑥

男との出会い

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西日に照らされる Deerfield River

  男はレモンイエロー色の作業着を着ていた。なにか用か?という表情をしている。 

 「こんにちは。あのー、ちょっと聞いてもいい?」 

 「うん。なによ?」 

 男は思ったよりも若く、気軽な感じで応じてくれた。 

 「このあたりでは釣りをしたいと思っているんだけど、やっていいのかな。」 

 「もちろんだよ。」  

  男はなんだ、そんなことかと言わんばかりで、笑顔を浮かべた。  

 「魚は川のどのあたりにいるのかな。」 

 「こっちでも、あっちでも、どこにでもいるよ。」 

 男は、anywhere ! と、腕を伸ばしてあちこちを指差した。  

 「それで、どんなマスが釣れるの?」 

 「レインボートラウト、ブラウンにブルックだよ。いっぱいいるよ。」 

 いっぱいなのか~。 

 「じゃ、やってみようかな。初めて来たんだよ。車はどこに止めればいいの?」 

 「どこでもいいんだけどさ。ここから2,3、マイル下ると公園があるから、そこに止めればいいよ。川も近いし。」 

 「そうなんだね。親切にありがとう。ちなみにそこのコールドリバーでも釣れるの?」

と、今通ってきた川の方を向いて尋ねた。 

 「釣れるけど、あっちの本流の方が大きいのが釣れる。絶対あっちの方がいいよ。」 

  big one ! という言葉をしっかりと聞き取ることができた。

 「ありがとう。そうしてみる。」

 「じゃあな。グッドラック 」

と、話が終わって行きかけた男に、  

 「そうそう。釣り券は買ってあるんだ。」 

と、もう一声かけた。男は一言、 

 「Great ! 」 

と言ってくれた。 

 

 機嫌よく教えてくれたことに感謝しつつ、言われた場所を探してみる。橋を渡ったところを左に入ると言われたと思うが、実際には橋が2つあり、手前の小さな橋を過ぎてところで左の側道を行くとやがて道は行き止まりで公園はなかった。そこで今度は大きな橋を渡ると、川沿いに道はあるが公園は右手にあった。聞き違えたのかなと思いとりあえず、その公園内に駐車する。と、10メートルも離れていいない草の上を、ダチョウを小型にした鳥たちの群れが、わさわさと固まって、落ち穂を拾うようになにかを捕食していることに気がついた。写真を撮ろうと近づくと、迷惑そうにそそくさと藪の中に隠れていった。 

 そこから川は目と鼻の先にあるが、道路と川の間には、平屋のトレーラーハウスのような家が立ち並んでおり、敷地の入り口にはプライベートエリアと表示されているから、立ち入るのは憚られた。そこから大きく橋のたもとまで迂回して、やっとDeerfield Riverの河原に降り立つことができた。

 流れの幅は広いところで十数メートルくらい。平瀬が川幅いっぱいに広がっている。右岸は広河原で人家のある草地へとつながっている。左岸は数メートルの高さがある崖でえぐられて地層が露出していた。川辺に釣り人の姿なない。時間は午後2時半を過ぎていて、日が暮れるまでの残された時間は2時間程度であろうが、それまでの時間、誰にも気兼ねなく、釣りに耽溺することができそうだった。 

 日の光、青空、雲の流れ、河畔林、河原の石、水の流れ。同じ温帯域にあるせいか、景色は日本と変わらない姿に見えた。