ライズを待ち続けて

東北の渓流を舞台とした釣り物語

2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

川で失くしてきたもの   6 シゲハルの住まい

その日、シンジは学校からの帰り道にシゲハルの家に寄った。シゲハルに家に行くのは初めてあった。シゲハルの家は平屋の一軒家で、シンジが玄関に向かって歩もうとすると、シゲハルは、あわててそれを制して 「こっち」 と、母屋の隣にある木造の小さな倉庫…

川で失くしてきたもの   5 フライフィッシングとの出会い

シンジはシゲハルと二人だけで話すのは、その時が初めてだった。シゲハルも釣りが好きで、ひとりであちこちの川に出かけて、川釣りをしていることをシゲハルの話から初めて知った。シゲハルの方も、シンジが同じ趣味をもっていることに好感を持ったようであ…

川で失くしてきたもの   4 釣り友達 

シンジもまた、中学生活に馴染めない生徒のひとりであった。シンジは中学入学後、運動部に入ったが、他の部員が簡単にこなしている日々の練習についていくのが辛かった。先輩からは根性がない奴だと思われているのが悔しくて、意気地を見せようとも思うのだ…

川で失くしてきたもの   3 失われた教科書

シゲハルは、中学校の教室の中ではいつも一番前の席に座っていた。背丈が低いということもあったのかもしれないが、むしろ教壇に立つ先生の目が届くところに座らせられていたというところだった。というのも、シゲハルの言動には他の生徒とは異なる奇妙なと…

川で失くしてきたもの   2 キャップ

それはロッドを納めるアルミ製のケースのキャップ(蓋)のことであった。それを失くした時のことはよく覚えていた。 釣りを終えて、車から取り出したケースに釣り竿を収納しようとした時に、キャップを足元に落としてしまった。夕暮れ時であり、暗くなった草…

川で失くしてきたもの その1 プロショップ  

シンジは長い間務めた職場を退職したが、まだ気ままに釣りをして暮らせる年齢ではなかった。半年ほど就職活動を続けて、春から雇用されることになったものの、運悪くコロナ禍の影響があって実際に働き始めるのは、5月の連休明けとする通知が届いた。まだ春…