ライズを待ち続けて

東北の渓流を舞台とした釣り物語

釣り爺様の昔語り カーティスクリーク 8/8

さてずいぶんと寄り道してしまったな。なんの話をしていたんだったか忘れちまったな。笑笑。そうそう、気象データを見てタカシと釣りに出かける話だったな。その年は期待していたほどではなかったがな、イワナは釣れた。面白かったのはな、タカシはブリーチのエルクヘアカディスしか使わないんだよ。あの時白いイワナを釣ったフライさ。季節、天候、魚の食性に合せてフライを変えるというフライフィッシングのセオリーには全くもって反しているんだが、それでも釣果を上げているのだから、面白いものだな。上体を前後にゆったりと振ってな、きれいな軌道でラインを飛ばしていた。

そんで最後に付け加えるがな、この川のもう一つの魅力はイワナが美しいことなんだよ。自然条件が厳しいところでな、強い水流にも負けずに育つからだろうか、サイズの割にヒレが大きいんだ。ワシがこの日に釣ったイワナも見事だったぞ。大きくて、美しく、力強くかった。6Xのティペットでなかなか上がってこなかった。釣ったイワナをタモに入れたまま川水に漬けてみたらな、胸鰭は手のひらを開いたように水平に広がってな、腹びれ、尻びれの方は垂直に広がる。そんで秀逸なのが尾びれだよ。サイズが大きくて、パンと扇形に広がっている。これがあるから激流に負けないでぐんぐん泳げるんだろうな。大きな頭についている目はキョロッとしてな、じっとワシを見つめるんだよな。これが本来のイワナの姿なんだろうな。こいつらは、この川で生まれて育つということを、気が遠くなるくらいの年月の間繰り返してきているのだろうな。親から子へと脈々と受け継がれてきたDNAを身に背負っているのだろう。

空は青空でな、木々の緑と水の色とのそのコントラストは今でも目に浮かぶようだよ。川は谷に積み重なった大きな石や小さな石の間を緩やかに蛇行していてな、そういうところに身を置いたら、改めて思ったよ。こういう美しい渓流の景色はよその国にもあるものだろうかとな。よくはわかんねえけどな、気候、植生、土壌、降雪量とか、そんな条件が揃って初めてできる風景なんじゃないかな、とな。こんな環境でフライフィッシングをできるのは幸せと思ったよ。フライフィッシングと日本の環境が調和した瞬間だった。なんてな。そして、ここがワシたちのカーティスクリークと思ったさ。

 

今回のワシの話はここまでだ。どうだったかな。楽しんでくれたかな。もし、また話を聞きたくなったらな、遠慮しないで呼んでくれな。先ずな、ワシの前にあるリンを、チン、チン、チンと3回鳴らしてな、それから、オーと一言入れてまた3回鳴らすんだよ。リンを鳴らす時は、チンと声も一緒に出した方がいいな。覚えたかな。それを合図にいつでもやってきて、また釣りの話をするからな。ではな。