ライズを待ち続けて

東北の渓流を舞台とした釣り物語

キサス・キサス・アニサキス 2

アニサキス中毒は食中毒の一種になるんだという。病院から保健所へ連絡されることは聞いていたが、検査が終わって病院を出るなり保健所から電話があり、質問攻めが始まった。原因と思われる食事をとった店の名前、場所、日時、時間、料理の内容、一緒に食べた仲間の名前や住所を聞かれた。

それだけではなく、発症した72時間前までに食べたもの全て調べるという。3日前の三食の内容を思い出すのは難しかったが、そう言ってもなかなか許してくれない。さらに、食した魚については、どこから買ってどういう調理したかまで詳細に問われた。思い出してみると飲み会の前の晩は焼きサバを食べていたし、されにその前にはスーパーから買ってきた茹でだこも食べていた。毎日のようになんらかの魚を食べていることを思い知らされたと同時にこれまでアニサキスとは無縁であった幸運もちょっと感じた。

サバは冷凍ものを解凍した上で、グリルで焼いたものだったが、どのくらいの期間冷凍したのか、焼き具合はどうだったのか詳しく聞かれた。これを言葉で表現するのは難しい。

さらなる被害を出さないためか、調査は急ぐらしく、回答を急かされた上、追加の質問のための電話が仕事をしている間も留守電に入って来た。そんなことを4.5日続けていたところ、必要なお調べは終わったようで、そのお店に提供した料理によって起こった食中毒と断定され、行政処分が下ること、その事実が公表されることを知った。翌日の地方紙の県内版の隅っこに、アニサキス中毒を起こした飲食店が、保健所により一日間の営業停止になったいう記事を見つけた。被害者は60代の男性ということまで載っていた。

気になっていたのは一緒に飲み食いした他のメンバーのことだった。連絡するかどうか迷いがあったところ、そのうち一人が、新聞記事から被害者が私であることを推測して、電話をくれた。またもう一人もその新聞記事は見ており、連絡をくれるところだったようだ。図らずも、あらためて地方新聞の情報発信力の強さを思い知らされた。しかしこれはみなさんインターネット世代ではないからかもしれないですね。

記事の中にも中毒源となった魚介類は特定されておらず、結局、店から出された魚のどれにアニサキスが潜んでいたのかはわからなかった。保健師の話からすると、サバやカツオ、イカ、マグロなど、どれにでも潜んでいる可能性があり、言わば犯人を絞り切れなかったようだ。ただ、自分としては「ぬた」と聞いた生魚の身と肝とを味噌を加えて包丁で叩いた一品が疑わしいと思う。アニサキスは魚が生きているうちは魚の内臓に取りついているということなので、それを生で食することは危険が高いからだ。うん、それに違いないな。

それと、断言できるもうひとつの理由は、同席した他の3人は進んで「ぬた」には箸を伸ばさなかったことだ。ちょっとえぐみのある味に惹かれて、残すのはもったいないと思い、結局自分が全部食べたようなものだった。と、するとみなさん港町のお住まいが長いので、知らずと生魚の食に対する危険性についての感覚が磨かれているのだろうか。普段スーパーの魚コーナーにあるトレーに入った柵や切り身を買って喜んで食べている都会暮らしの人間との、危険察知能力の違いを見せつけられたような思いがしたのは考えすぎだろうか。